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Aug 3, 2012

日曜島からきた子ども


潔く、明解な。短篇小説の一行目のような。そんな八月の木曜日に。
日曜島のことを思い出していた。

祖母の容体がよくないと、母から聞いた。
祖母は僕の名を呼んだそうだ。「会いたい」と言ったそうだ。
僕は読んでいた短篇小説の背表紙を見つめながら、自分に何を求められているのか、いや、それすらも考えられずにいた。
背表紙には「君はフィクション」と書かれていた。ああ、その通りだ。
気の利いた言葉をひとつも言えずに電話を切った。いつもそうだ、僕は誰かが本当に言葉を欲している時に、その言葉を喉で止めてしまうのだ。
喉が僕を子どもにする。
人からすれば鈍い人だろう。
でも、それではもういけない年齢になった。
僕はもう日曜島の子どもではない。

部屋の壁に小さなクモが一匹いた。
新聞受けから広告をとって丸めて叩いた。
足元にクモが落ちた。
涙が勝手にでた。

人は何故苦しくも生きる?
死を考えると、同時に誰かの顔を思い浮かべるからだろう。
こちらに愛着がでてしまう。
そう、いつも誰かが誰かを見ている。
そうして存在している。

ばあちゃん、日曜島は天気がいいかい?